六畳半のすごし方 TOP  >  本の感想 >  ベーシック・インカム 国家は貧困問題を解決できるか(原田泰)

ベーシック・インカム 国家は貧困問題を解決できるか(原田泰)

ベーシック・インカム - 国家は貧困問題を解決できるか (中公新書)

○ベーシック・インカム 国家は貧困問題を解決できるか 原田泰 中公新書

 前々からベーシック・インカム(以下BI)に興味があったので手に取ってみました。
 読む前も読んだ後も、個人的にはBIには好意的な意見です。個人的な都合を言えば、数年後には会社辞める予定なので改悪必至な年金制度よりもBIの方が得しますからね。
 この制度を実施する場合の最大の問題は財源ではなく政治的(世論や既得権益層の反発)な問題だと思います。


 財源的な話をすれば、支給額にもよりますが可能なようです。例えば著者は月7万円(未成年は月3万円)、所得から一律30%の税率モデルを提案しています。この場合に必要になる財源は96.3兆円。巨額ですが色々振り替えたりすれば行けるそうです。っていうかこの辺は数字遊びだと思うので支給額を減らせば低負担になるし、増やせば税率を増やすだけなのでこれ自体はあまり重要では無いと思ってます。
 BIは全ての国民に支給されるので、富裕層にまでは不要なんじゃないか?という疑問もでてきますが、これは現行の税制でいえば基礎控除だと解釈すればいいと著者は言っています。つまり著者モデルで言えば「所得×0.7+84万円」が個人所得になるので、30%と高い税率ではあるものの、84万円が事前に振り込まれるので現行の中間層の負担感とさほど変わらない。累進課税をつければ富裕層から取れるし、BIは憲法で保障する最低限必要な生活のためのお金なのだから富裕層とか関係ないでしょ、という話。また、生活保護と違って所得があってもBIの支給額自体が減額されるわけではないので、労働意欲が下がるわけではない。働けば働いた分だけ所得が増える。

 個人的な感想としては、BIによって労働意欲が下がることはほとんどの場合無いと思っています。年間150万程度までなら普通の人は働くんじゃないかな。正確に言えば150万くらいでようやく極一部の人が働かなくなる。私は数年後会社辞めて独りで生きていく計算をしていますが、安アパートに住んだとしても年間150万程度(年金除く)は必要で、それ以下での暮らしは余裕がなくなります。私が無一文でBIで100万貰えたとしても働く選択をします。
 会社を定年退職した人がその後シニアとして働いたり、他の会社で働いている様子を見ると人って結構暇つぶしに仕事してたり、安心のための金を欲しがるんだろうなって。言っちゃなんですが私が勤めている会社は大企業で定年まで働けば結構な財産になるんですが、それでも働いている人を見ると、人間の欲求って大きいんだなと思いますね。
 感情的な話でいえばやっかみですかね。働いてないのにお金を貰えるなんてケシカランみたいな。アホらしい。みんな貰えるんだから貰っとけよ。それで他人が何をしようが知ったことじゃないだろ。むしろ金貰ってるんだから俺がお前の面倒見る必要ないよね?って言い訳にできるんだから一石二鳥だと思うんですが、そう考えない人は多いのかな。


 さて、話が前後してしまいましたが、まずそもそも現行の社会保障制度を確認する必要があります。
 本書が真っ先にあげたのは企業による保障です。

 社会安定の新たな制度を創出することが日本社会に求められ、政府は、1960年代になって企業に新制度構築への支援を求めた。高い成長と潤沢な利益を享受していた企業はこれに応じた。企業を通じた社会保障制度、すなわち、雇用保険、医療保険、厚生年金保険などの社会保険制度が本格的に導入されるようになった。また、当時は、政府にとっても企業にとっても社会主義の脅威は現実的なものであった。こうして、日本の企業は、終身雇用を保証する努力を払い、社会保障費用の一部を肩代わりすることとなった。


 良い仕事(会社)にありつけるか、まずこれが試される。というかこれでその後がほぼ決まる。給料はもとより、扶養手当、基礎年金、厚生年金、皆保険、失業保険など大企業であればあるほど手厚く、非正規、パート、アルバイトなどは手薄い(加入の条件が厳しい)。そもそも非正規の方が不安定で失業保険を一番必要としているのに、その恩恵が受けにくいって逆じゃないのか。
 日本の社会保障は一事が万事これ。生活保護にしても、保育園にしても、災害時の仮設住宅にしても適用された人は大きい利益を受けられるのに、そこから溢れた人には何のメリットもない。
 具体的には、生活保護は支給額で見れば先進国でも高い水準で適用率は低いという特徴があります。よく最低賃金より高いんじゃないか?と言われますがそのとおりで、日本の生活保護は世界平均よりも貰っています。その代わり貰っている人の数は少ない。貰えれば天国、貰えなければ地獄。40年以上も働いて納めた年金よりも高く、必死に働いて得た金よりも多くもらえる生活保護はおかしいんです。社会保障の在り方で考えれば広く、薄くが普通。
 保育園も莫大な税金を投入することによって、国が定めた保育園は安く利用できるけど、それ以外では高い料金を払わなくてはいけない。仮設住宅は1軒600~800万円かかる。だったらそれ被災者に直接あげた方が家建てる頭金になるんじゃないの? っていうか仮設住宅に入らなかった人そんなに補助して貰ってないよね?
 ちょっと前にエコポイントってあって、特定の家電製品や自動車に適用されていたけど、これって税金を使って特定の企業を優遇しただけじゃないの? 公共事業によって雇用を創出するっていうけど一部の業界の一部だけにしか恩恵ないよね? 太陽光発電の買い取りって要するに一般人が太陽光作った人に金払っているだけだよね? 等々……。


 国に選ばれた人と、選ばれなかった人で保障に大きな差がある。これが果たして国民の安全や保障を守る国家の在り方として正しいのか? 日本の社会保障はまず企業ありきで企業に負担させ、そこから溢れた人をテキトーに拾って、さらにそこから溢れた人には知らぬ顔をする。そんな恣意的でいい加減な制度はやめて全員に平等に金渡せよ。官僚機構を肥えさせて何の意味がある。その金直接ばら撒けよ。という発想になるのは自然なことだと思います。私はこの点でBIを支持しています。税制をスッキリさせることができれば、それに伴う手間や人的リソースも少なくなるのでその分生産性が高まるとも思うし。

 BIは既存の社会保障をガラっと変えてしまう(税金の使い方、税金の流れを変えてしまう)ので、必然的に税制と結びつきます。だから官僚機構やそれに関わる組織は抵抗するだろうし、世論的にも合意を得るのは難しいと思います。でも、年金が癌になっている日本の社会保障を考えれば、結局BIを採用せざるを得ない方向に傾くのではないか、という気もしないのではないのですが、まあ、あまり期待できないかな。

 ベーシック・インカムは単に平等主義的なものではなく、国民の生きる権利を保障しつつ、その自由を守るという点では結構自由主義的な発想です。国家の役割、国民の保障という点を考えた時に果たして現行のやり方が正しいと言えるのか、効果を上げているのか。
 資本主義が進めば進むほど日本の平均賃金は下がります。世界平均に回帰するのが資本主義だからです(世界全体、特に貧国の富と平均賃金は上昇する)。非正規雇用が当たり前になり、企業による社会保障は不可能になる。人口はますます逆三角形になる。生涯未婚率は2015年の調査で男性23%、女性で14%。もはや結婚するのが当たり前とも言えない時代。こうなってくると子どもへの所得分配は独身税のようなものになる。人口を増やすだけなら移民を受け入れればいい。BIの対象とするならオランダのように厳格な審査基準を設ければいい。今後高度な技能を持つ労働者はより重宝がられる。なんなら高度なロボットを作って代替してもいい。話が大きくなってしまったけど、現在は30年前のように子どもがいて夫が一家の大黒柱になって妻がパートで支えるというモデルは事実上市民権を失っています。このような時代に何が平等で公平かは一概に言えない。様々な生き方があり、貧困へ落ちる様々な理由がある。正規雇用と非正規雇用、エリートとノンエリート、所得の多寡、国に選ばれた人と選ばれなかった人によって天国と地獄になってしまう社会は歪んでいる。生活保護水準以下の所得で暮らしている人は人口の13%いる。なのに生活保護を受けている人は人口の1.6%に過ぎない(2011年現在)。この国は貧困者を見捨てている。
 大概の問題は何かが絶対的に足りないんじゃなく、やり方がおかしいんだと私は思っています。試算的にはBIは可能だとされている。最低限の保障がある上で、より富を求めるも良し、ほどほどに留めるも良し、好きなことをするも良し。結婚して子どもをもうけない生き方、子どもをもうける生き方、独りで生きる生き方、人の数だけ生き方があっていい。その手助けをするのが国家の福祉だと思う。

 BIは、人々のあらゆる試みに、それが素晴らしいものであれ、客観的には愚行にすぎないものであれ、最低限の報酬を払うということでもある。私は悪くないことだと思う。

 私もそう思います。たとえ失敗して地べた這いずって泥水すすることになったとしても、自由に生きる権利はあると思っているし、そうなったらなったで所詮それがその人間の器だと思ってる。そのためのスタートライン、権利くらいはくれてやるのが国家の役割なんじゃないのって。それができるならBIじゃなくてもいいんだけどね。まっ、一番の理想は企業や国に依存しない生き方ができることだけど。


[ 2017年07月29日 15:17 ] カテゴリ:本の感想 | TB(0) | CM(-)
トラックバック
この記事のトラックバックURL