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TOKYO 0円ハウス 0円生活(坂口恭平)

TOKYO 0円ハウス 0円生活 (河出文庫)

○TOKYO 0円ハウス 0円生活 坂口恭平 河出文庫

 「うまくいっているところは、うまくいっている。やっぱり一番重要なのは人柄なんだよね


 著者が出会ったホームレスの鈴木さんへのインタビューをもとに書かれた本で、タイトルのとおり全て廃品から作り上げた家が紹介されている。
 ホームレスの家というとダンボールハウスを連想するのだけど、鈴木さんの家はしっかりしていて、テレビ、ラジカセ、室内灯、保温調理器など家電製品が置かれている。夏冬の温度対策もバッチリ。月に1度国土交通省が点検にくるのでその際は撤去しなければならない。この手間を省くため組み立てを限りなく簡易化できるように工夫されている。さらには不良少年達の嫌がらせ(川沿いに住んでいるので上から花火や盗んだ自転車を落とされる)から守るため屋根は耐火シートや補強がされている。さらにさらに、不在時に食料などを盗まれたこともあったので防犯対策や隠蔽など生活の知恵がこれでもかと投入されていて、一般人が想像するダンボールハウスのレベルをはるかに超越したマイホームがそこにある。

 そんな家の紹介もさることながら、鈴木さんの生活ぶりが面白い。
 たぶんこの人は普通に仕事をしていても有能だったと思う。そもそも何故ホームレスになったかというと、勤めていた会社が倒産して東京に来て酒を飲んで泥酔していたら持ち物を盗まれてそのままホームレスとして暮らすことに。変わり者というかあまり執着心とかなかったんでしょうね。それでいて勘が良く、器用でコミュニケーション能力が高い。
 たとえば生活費。アルミ缶を拾って生計を立てているのだがその収入は月に5万円。週に100キロほども拾うという。アルミ缶はそれなりの値で売れるのでホームレスの間でも競争率が高い。どうやってそれほどの量を集めているのか? 実はお得意先があるのだ。ラブホテルなどの営業店の清掃員に話しかけて許可を貰って専属的にアルミ缶を貰う。あるいは個人宅やマンションで交渉してベースを稼いでいる。
 また、家電製品を動かすための自動車用バッテリーもガソリンスタンドに交渉して定期的に貰っている。充電がなくなれば廃品業者が買い取ってくれるのでゴミにならない。普段使っている自転車もたまたま知り合った人から譲り受けたもの。しかもくれた人は譲渡証明書を作ってくれたそうな(ホームレスが自転車に乗っていると盗品と思われて職質されるらしい)。鈴木さんはその証明証を持ち歩いている。

 鈴木さんの生活はこのようにして一種合法的に譲渡されリサイクルされている。アルミ缶を集めた袋を盗まれることもあるようで、警察に相談するとちゃんと被害として扱ってくれるらしい。不良少年を仲間とともに懲らしめたときも警察は鈴木さん達の味方になってくれたそうで、鈴木さん曰く警察に顔が利くとのこと。
 その他着ている衣服も、偶然助けた人が服屋の社長でそれ以来、年に2回新品の服を届けてきてくれる。いくら恩人でも普通はここまでしない。となれば鈴木さん自身に人を惹き付ける魅力があるのだと思う。著者との会話も実に快活に楽しそうに話している印象を受ける。普段のゴミ拾いもちゃんと汚さないよう後片付けもしている。これは汚してしまうと役所に苦情が入りゴミ拾いが禁止されてしまうという背景もある。だから東京の区でも禁止しているところもあれば黙認しているところもあって様々。往々にして不届き者はどこにでもいるのでそうした輩が他のホームレスにも迷惑をかけているようです。

 家に対する創意工夫、システマチックなゴミ拾い、周囲への気配りと筋の通し方。普通にデキる人だよこの人。ほんとになんでホームレスしてんだよ。才能の無駄遣い。いや、この才能があるからホームレスでも気楽にやっていけるんだろうけど。

 無論こうした生活が全て賞賛されるものではない。具体的には水は近くの公園から1日40リットル汲んでいて、公共施設の利用としては一般的な量を逸脱している。家がある場所だって国有地でそれを私的に専有している。一見すると自由で自立しているように見えるが善意(お目こぼし)を利用していることに違いはない。著者は鈴木さんのような生活に感激し、使えるものを捨てたり必要以上の設備を持った家を持つ現代の生活に懐疑の目を向けているが、鈴木さんを含めてこうした生活ができるのも現代資本主義の結果であり、だからこそ飢え死にすることなく生きていけることを忘れてはならない。
 それはそれとして、要はやりようだなーと思う。鈴木さんのような生き方に憧れる人はおそらく稀だと思うけど、全てを失っても本人の資質次第で比較的快適に生きていくことはできる。ホームレスというと社会の落伍者、排斥された弱者というイメージがあるが、案外気楽に満喫している人もいる。特殊な才能だとは思うけど。でも筋をとおし、礼節を守るだけでも全然違う。ちゃんとしている人はどこの世界でも敬意を受ける。本書を読んで一番勉強になった部分です。

 これは私の持論というか、願望だけど、人生というのは帳尻が合うようにできていると思っている。ちゃんとしている人は相応の見返りがあるし、してない人はそのツケを払うことになる。


 「この前までアルミ缶をくれていたマンションの清掃員が社長命令で缶をあげられなくなったと言ってきたよ
 「その日、ちっとも拾えなかったなーと落ち込んで帰ろうとした時にね……
 「最後のゴミ捨て場で缶を拾っていたら、1人の老人が出てきてね、いつも頑張ってるねと声をかけてくれたんだよ
 「その人は喫茶店のマスターで店の前のゴミ捨て場でいつも拾っているのを見ていたらしいんだよ。それで仕事ぶりを見て感心していたらしい。それで、空き缶をオレのために取っておいたと言うんだよ。全部で8袋もくれたよ。マンション駄目になったのに、取り返したよ。不思議だね、本当に
 「そして、その人は内緒だよと言って、缶ビール1本くれたんだよ。うまかったね
 「いやぁ、生きるってのは本当に面白いよ


[ 2017年06月15日 21:43 ] カテゴリ:本の感想 | TB(0) | CM(-)
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