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本当は間違っている心理学の話(スコット・O・リリエンフェルド)

本当は間違っている心理学の話: 50の俗説の正体を暴く


○本当は間違っている心理学の話: 50の俗説の正体を暴く スコット・O・リリエンフェルド他 化学同人


 通俗的な心理学のエピソードを否定すると同時に、それらニセ心理学を利用した金儲けの宣伝が多いことも書かれている。どうやら人は自分をポジティブにする潜在意識と、ネガティブにすることから逃避できる「○○のせい」的な責任転嫁が大好きらしい。
 
フロイトの名前がたびたび登場しますが、これは「フロイト先生のウソ」にも詳しく書かれています。内容的にダブっている部分も多いですが合わせて読むと漆塗り的に補強されるので知識が深まるでしょう。フロイトの名は有名ですが、あの人はあの人でちょっと、かなり、特殊な人だったと思って差し支えありません。性欲と抑圧に期待しすぎ。

 ニセ科学を知る上で重要なのは嘘と正解を知ることです。潰瘍の原因がストレスではないとして、じゃあ何かと言ったらピロリ菌。でもピロリ菌を直接飲んでも(証明しようとした医師が飲んだらしい)実際の罹患率は10%程度でみんながみんなそうなるわけではない。そういった正しい知識を持つことで嘘に惑わされにくくなります。
 では、これらニセ科学を排除することにどれだけの意味があるかといえば、個人的にそれを信じる分にはどうでもいいです。それで死んだとしてもそれはその人の問題であってどうでもいい。ただ、誤解や偏見から他人に迷惑をかけたり差別するといったことが生じるのは問題でしょう。例えば日本で根強く誤解されているものに血液型性格診断がありますが、これは今日ではブラッドタイプ・ハラスメントと呼ばれるようになっているようです。こんなので差別されたり、よくわからない命令されたら嫌でしょ?

 ただし、この本はこの本でかなり端折った書き方をしているので鵜呑みにするのは危険です。気になった部分やほんとかな?と思った部分はより専門に扱っている本を探すのが賢明。

 とりあえず「バーナム効果」と各種「ヒューリスティック」を理解しておくと便利。


神話1 人は脳の10%しか使っていない
 「フロイト先生のウソ」に詳しい。効率化した結果働いていないように見えるだけ。生物の器官でしかもよりエネルギー消費の激しい脳の90%が使われてないとかどんだけ無駄なんだよ、という話。
神話2 左脳人間と右脳人間がいる
 脳の左右で得意不得意はあるが、リンクして働くのでどっちがどっちというのはあまり意味がない。
神話3 超感覚(ESP)は科学的に確立された現象だ

 冷戦時代アメリカで「スター・ゲート」計画なる遠視実験が行われたが結果が出ずポシャった。
神話4 ものが見えるのは、眼から微細な物質が出るからだ

 個人的に謎な理論だが、古くはプラトンがそんなことを言っている。
神話5 サブリミナル効果でものを買わせることができる
 神話6と同様「錯覚の科学」に詳しい。
神話6 モーツァルト効果で子供の知能が向上する
神話7 青年期は心理的に不安定な時期である

 いわゆる反抗期。反抗期がないと正しく成長しないという証拠は無い。案外彼らは平穏に過ごしている。ちなみに西洋よりも東洋(日本)の方が青年達は家庭に肯定的なイメージを抱いている統計がある。

神話8 40代から50代前半に中年の危機が訪れる

 「中年期」と限定するものではない。その時期は仕事、家庭、老後の見通しなど様々な問題やケースがあるのでみんなその言葉を聞いてそれぞれに納得しやすいだけ(バーナム効果)。実際にインタビューしてみると案外みんな自分の生活に満足している。

コラム:空の巣症候群について
 子どもが自立した後に親が鬱っぽくなるアレ。実際はそんなに多くないし、経験しても案外ケロっと立ち直ってその後の人生の満足度が上がっているデータがある。子育て熱心で、子どもがちゃんと自立すればそれは親にとっても実り多い体験のようだ。

神話9 高齢者は不満が多くなり、心身ともに衰えが増す
 生物的な問題は別として、彼らは案外満足度が高い(そう思わないとやってられないってのもあるんだろうけど)。新しいことや新しいスキルに対する関心度も高い。
なおセックスにも興味津々であり多くの人が現役であると答えている。

神話10 余命を知ると、誰もが同じ心境の変化を経験する
 キュブラー・ロスの「悲哀の五段階」のこと。みんながみんなそうなるわけではない。

神話11 人は過去の出来事を正確に記憶している
 「つくられる偽りの記憶」に詳しい。神話12についても同様。
神話12 催眠術で忘れた記憶を取り戻せる
神話13 トラウマ的な出来事の記憶は抑圧される
 実証されていない。単に忘れているか、言いたくないので黙っていただけ。幼児期の性的虐待について子どもからの報告が遅れるのは、当初は混乱していたためで加齢とともに虐待だったと意識され嫌悪感を持つから。

神話14 記憶喪失は過去の出来事をすべて忘れる
 頭部外傷を受けた人が心配すべきは前向性健忘。これから憶えることが難しくなる。映画「メメント」に詳しい。ちなみに個人的体験(エピソード記憶)は忘れているが、話したり常識的な記憶を持っているというのは脳機能的にあり得る。ただし深刻な記憶障害の場合、脳機能自体がダメージを受けているので日常全般にわたって困難が生じる。
 当たり前のことだが、もう一度ショックを与えても記憶は戻らない。


神話15 IQテストは特定の人には不利になる
 これはアメリカの人種的な問題が絡んでいる。要は白人の方が黒人よりIQが高い、あるいは男性の方が女性より、などのような結果が出やすくそれが差別問題と混同され司法判断にも影響を及ぼしている。実際に白人の方が教育環境が良い場合が多くその結果がIQテストに反映されているだけで、黒人の知能が白人に比べて劣っているという意味ではない。IQテストはそれを受ける人々の社会的・環境的・教育的な背景を反映しているに過ぎない。

神話16 試験に自信がないなら、最初の直感を信じるのが一番
神話17 ディスレクシア(読み書き障害)の特徴は逆さ文字である
 「声に出す」ことと「単語を識別する」ことにも障害がある。詳細は不明(本書でも詳述されていない)
神話18 生徒の学習スタイルに合った指導で最高の学習効果が得られる
神話19 催眠は目覚めているのとは違う「トランス」状態である
神話20 夢には象徴的な意味がある
 フロイトは夢の解釈について患者に任せるべきと言いながら自身はやたら性欲に結びつけて患者を診察していた。たぶんこの人ちょっとおかしい。なお、夢診断について正しいことは、日常的な考えや感覚が反映されやすいこと、感情が影響されやすいこと。夢を見る際は感情中枢の方が優性になるらしく、抑圧されて抽象化されるような理性的な働きはむしろ弱くなる。
 夢診断を行っている精神科医の本で、今の患者が何を問題にしたいか、しようとしているか、どういう方向に話しを向けたいかを見るためのキッカケ、話のネタに使っているのは読んだことがあります。


神話21 睡眠学習は効果的な方法である
 録音したテープを聴かせるわけだけど、もしかして起きてるんじゃない? しっかり寝てしっかり勉強した方が効率良い。
神話22 体外離脱体験の間、意識は体から離れる
神話23 嘘発見器は確実に嘘を見破る
 妥当性に疑問があるためアメリカでポリグラフ・テスト(嘘発見器)は法廷ではほとんど採用されなくなった。また、雇用者が従業員に使うことも禁止されている。しかし面白いことに国が法執行機関、軍事期間、安全保障機関で使うことは対象外にされている。つまり嘘発見器は、コンビニの店員を雇うのに十分信頼できるとは考えられていないが、役人がFBIやCIAのメンバーを調査するのには使える。
 ちなみに自白剤の効用はアルコールに近く、ぼんやり眠くさせる。ということは正しい情報も間違った情報も引き出しやすい。


神話24 幸せは生活環境で決まる
神話25 潰瘍の原因はストレスだ
神話26 ポジティブ思考でガンを克服できる
神話27 自分とは違うタイプの人に惹かれる
神話28 緊急時、数多ければ安全である
 責任が分散される。周囲の人達が騒いでいないのであればそれは非常事態ではないと勘違いしやすい。
 「他者から認められることへの感心が薄い人や伝統的な考えに縛られない人ほど、他者が周囲にいる場合でも人間の本質に反して、緊急時に介入しやすいとされています」


神話29 男女のコミュニケーションはまったく違う
神話30 怒りは抱え込まず発散したほうがよい
神話31 同じ環境で育てられた子どものパーソナリティは似ている
神話32 遺伝的な特性は変えることができない
 神話31と同様に生まれか育ちかの話になるが、性格や知能は遺伝的影響が強い(とりあえず50%程度と思っておけばいい)。なお、遺伝的影響が100%だからといってそれが直接問題になるわけではない。例えばある種の病気や障害は遺伝率が非常に高いが、その障害を発生させる原因から離れれば障害は生じない。同じように現在の環境が影響を与えていても、違う環境に置かれればそれがどう影響するかは未知数であり、上手くいけば上手く行くかもしれない。

神話33 自尊心の低さが心理的問題の原因だ
 対人関係、喫煙、アルコール依存、薬物乱用とは関係ない。因果関係で言えば自尊心が低いから○○が悪いというより、例えば成績が悪いから自尊心が下がる。とはいえ自尊心が高い場合、積極性や粘り強さ、幸福感や感情面での立ち直りの早さに相関関係がある(因果関係は不明)。ただし、自尊心が高すぎて周囲を見下しすぎると色々もめたり暴力的になることにも相関関係がある。結局のところ、自尊心だけでなくその他様々なスキルや依存心、自立心、心理的作用が関係していると考えられる。

神話34 幼児期の性的虐待は、深刻なパーソナリティ障害を引き起こす
 精神疾患や精神病になりやすいわけではない。被虐待者が虐待者になる率は健全者よりも高い傾向があるが、本書ではせいぜい8分の1の連鎖率。「フロイト先生のウソ」では3分の1。幅が大きいが負の連鎖はそれほど強くない。
 精神病にならないからといって禍根を残さないということではないが、これは言い換えれば子ども達には立ち直る力があることを裏付けている。仮に親が離婚しても案外子ども達は健全に成長する。


神話35 ロールシャッハ・テストでパーソナリティがわかる
神話36 筆跡にはパーソナリティが現れる
 日本でいう血液型性格診断のようなローカル(アメリカ)の神話。
神話37 精神医学的診断名は差別のもとになる
神話38 自殺するのは重いうつ病患者だけだ
神話39 統合失調症は多様なパーソナリティーを持つ
 個人的にこの神話自体が謎だが、おそらく統合失調症がかつて精神分裂病と呼ばれていたことから誤解されたものと思われる。多重人格は解離性同一性障害。ただし本当に独立した人格が複数あるかは専門家の間でも意見が分かれている。

神話40 アルコール依存症の親を持つ子はすぐにわかる
 いわゆるアダルト・チルドレンのこと。巷で流布されているアダルト・チルドレンの特徴(性格傾向)は実際の統計からはそれほど強い相関は見られない(バーナム効果と考えて差し支えない)。ただしいくつかの傾向、神経質になりやすい、社交的、危険を厭わないなどの相関は認められる。が、結局のところその人の性格の方が因子として強いと言ってしまえる。
 虐待児童の件もそうだが、こうした偏見や誤解が専門家からも出やすいのは、彼らが深刻な患者ばかり診るからで、実際にはそうでない人の方が多いという事実が抜けていることがあげられる。人は案外タフなのだ。


神話41 幼児の自閉症が急増している
神話42 満月の日には精神病院への入院と犯罪が増える
神話43 精神病の人は暴力的である
神話44 犯罪プロファイリングは事件解決に役立つ
神話45 犯罪者の多くは心神喪失で罪から逃れようとする
神話46 自白する人は実際に罪を犯している
 自白強要…もあるが、意外と多いのが注目を集める事件での嘘の自白。やってないのに自分から名乗り出る人が結構いるらしい。自白を強要されてそれが内在化、つまり本当に自分がやってしまったのだと思い込むケースも希にある。なお警官は自白の鑑定眼について素人と大差ない。プロファイラーも同様。もしかしたらちょっと上手いかも程度。

神話47 臨床場面で一番頼りになるのは専門家の判断と直感だ
神話48 アルコール中毒の現実的な治療法は禁酒である
 人によるという前提はあるが、アル中は治らない…というわけではない。案外自制できたり適度に飲めるようになるケースもある。
神話49 幼児期の問題に対峙させる心理療法は効果がある
 過去をどう思うかより、今をどうするかの方が重要。「忘れられる」というのは案外便利。
神話50 電撃(ショック)療法は残酷で身体にも悪い
 技術の発達により危険性は下がり、効果は上がっている。「カッコーの巣の上で」のインパクトって強いよね。

[ 2017年04月21日 13:08 ] カテゴリ:本の感想 | TB(0) | CM(-)
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