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砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない A Lollypop or A Bullet(桜庭一樹)

砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない  A Lollypop or A Bullet (角川文庫)


○砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない A Lollypop or A Bullet 桜庭 一樹 角川文庫

 一人の少女が惨殺されたことを報じる記事から物語は始まり、そこへたどり着いて終わる。
 主人公は生活保護を受けている母子家庭の長女。兄はひきこもり。貧困な家庭を支えるため中学を卒業したら自衛隊に入ろうと考えている。そんな彼女が通う学校に海野藻屑という珍奇な名前の少女が転校してくる。少女は一ヶ月後殺される。普通の女子中学生である主人公に事件を防ぐ力は無く、藻屑は親に虐待され殺される。大人達も助けにならない。主人公は改めて自分の無力さを、子どもの無力さを実感しながら友達だった彼女のことを強く心に刻む。

 ほろ苦いビターな味。
 当たり前のことだが、親には当たり外れがある。当たりを引けば比較的真っ当な生活を送れる。外れを引けば生き地獄。そしてどちらを引いたとしても子どもの無力さは変わらない。子どもには環境を変えることも、親を変えることもできないから。親は牢獄であり看守であり拷問者であり教祖であり呪詛である。子どもはそれに汚染される。そこから逃げる術はない。藻屑が選んだ道は空想であったが儚く消える。砂糖菓子でできた弾丸では何物も撃ち抜けなかったから。

 本作では子どもの虐待に関してストックホルム症候群などで説明されていますが、より詳細に知るのであればノンフィクションなら『犬として育てられた少年』、小説なら『永遠の仔』がオススメです。アニメなら『輪るピングドラム』とか、『ドキドキプリキュア!』に登場したレジーナを見るといい。子どもは基本的に親のことを好きになる。好きでいようとする。しかしその親に暴力を振るわれたら? 自分の気持ちと親への愛情が混ざりあってデッドロックになってしまう様が描かれています。
 正味な話、そういった家庭に生まれてしまったらどうすればいいのかというと、どうしようもないです。運良く周囲が助けてくれることを期待するしかありません。大人になって持ち直せるかというとこれまた難しい。幸いなことにそういった家庭は全体から見れば少数で多くの子ども達は普通か、主人公のような貧困家庭に生まれるのでそこでまでベリーハードな人生ではないだろうと思う。


 この物語の主人公は現実主義者で、特に自衛隊に入ることがその近道だと考えている。生きるために必要なものを彼女は【実弾】と呼び、それ以外には興味関心を持たない。藻屑の空想はフワフワの砂糖菓子でそんな弾では現実を変えられないと思っている。その考え方は半分正しい。実際藻屑は生き抜くことができなかったから。
 でも主人公の実弾主義もまたある種のファンタジーだと思う。ここで言うファンタジーとはこのような意味です。つまりさっさと職について自立すれば解決するという考えもまた一つの思い込みにすぎない。それが現実的な選択肢であっても。先生がアドバイスしているように中卒と高卒では就職にかなり影響するので後々選択肢を大幅に狭めかねない。主人公にはそれが見えていない。
 それに私は空想の力が無力だとは思わない。藻屑のような空想も、(矛盾するようだが)主人公の持つファンタジーも。人が物語や空想、創造、ファンタジー、信仰を持つのはそれが楽しいからであり、また事実人を救うことがある。フランクルの『夜と霧』にもそんなことが書いてあったと思うんだけど、幻想を持つというのは心を守る上で非常に重要。端的に言えば精神耐性が上がる。私がアニメや本を読むのもそうした物語から抽出して自分の精神を鍛える側面があります。無論、それで劇的に何かが変わるわけではありません。でも、もしかしたら生死やその後の明暗を分けることがあるかもしれない。【実弾】を求めて主人公は前に進もうとし、藻屑だって空想があったからこそあの時点まで生きていられたのだ。

 本作が語るように生き残った子どもだけが大人になる。子どもに実弾は撃てない。へっぽこな武器でぽこぽこ変なものを撃ちながら戦うだけ。それでも生き残る子どもがいる。そして大人になったときに実弾を持つ。ではもう砂糖菓子はいらないのか? そんなことはない。私の実弾の弾頭にはチョコレートが入っている。
 子ども達の武器はとても頼りない。でも実は大人もそれと大差がない。生き抜くための力。その弾丸がどこまで通用するか、結局は自分の命をもって証明するしかない。
 ……って書くと殺伐とするでしょ? それじゃ味気ない。だから空想やファンタジー、信仰をまぶすんです。人生が甘く楽しくなるようにと。


[ 2017年04月14日 20:18 ] カテゴリ:本の感想 | TB(0) | CM(-)
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