六畳半のすごし方 TOP  >  映画の感想 >  この世界の片隅に

この世界の片隅に

この世界の片隅に 劇場アニメ公式ガイドブックこの世界の片隅に : 上 (アクションコミックス)


監督・脚本 片渕須直
原作 こうの史代


 すずさんを見たときに、「この人、持ってる人」だなって思いました。
 すずさんは天然の入ったのんびりした娘さんで、絵を描くのが好きな普通の女の子。物語は彼女の少女時代からダイジェストで始まっていきます。歳をとっているはずなのに全然変わらない。いつでもおっとりしていて、朗らか。そんな田舎娘も嫁ぐ日がやってくる。でもやっぱり天然さん。
 この作品の前半の見所は、当時の生活がゆっくりと味わえる点にあります。70年前の日本人ってこういう暮らしをしていたんだ、と。本当に自然体ですずさんは色んな家事をこなしていきます。今の人から見れば原始的で不便で手間がかかるんだけど、その当時の人々の創意工夫と手際の良さ(すずさんちょっと不器用だけど)に感心することしきり。本当に戦争が起きているのかと見ている方が疑うくらい穏やかに日常が過ぎていく。

 物語の主な舞台(すずさんが嫁いだ先)は呉。すずさんの実家がある広島から東にちょっと行ったところ。
 太平洋戦争、広島とくれば誰もが原爆を想像しますよね。話がちょっと前後しますが、私はこの作品の原作を読んでなかったし、事前情報ゼロで見ました。ただ、同じ原作者の漫画である『夕凪の街 桜の国』は読んでいたので、またこのパターンかなと思ったわけです。裕福とは言えなくとも幸せな日常が原爆によって壊されるってパターン。でもその日は予想したよりも早く訪れる。それでもこのシーン自体は戦争を扱った作品であればよくあるものだと思います。むしろお約束と言っても構わない。
 ところが自分でもビックリしたんだけど、すげー凹んだんですよ。マジで。なんで俺こんなに凹んでるの?ってくらいに。

 すずさんの日常が、大切なものが、大好きな絵が奪われる。さっきまであんなに楽しそうに、幸せそうに笑っていたのに。そのギャップが今まで見たどの戦争映画よりキツイ。それはこの作品の主人公すずの造形、描き方が素晴らしいから。この人の日常をずっと見ていたい、この人の笑顔を、みんなから呆れられて笑われている姿を、この人が話す言葉をずっと聞いていたいと思わせる魅力がある。それが途切れてしまうその瞬間が本当に辛い。

 身も心も傷つきながらもそれでも日々を生きていかなければならない残酷さ、しかしそれに慣れていくたくましさ(鈍感さ)。堰を切ったようにすずさんが叫ぶシーンはいたたまれない気持ちになるのと同時にちょっとだけ安心するんです。ああ、すずさんのような人でもこんな気持ちを抱えるんだと。彼女はいつまでもウブな童女なんかじゃないのだと気づかせてくれる。
 そしていつものすずさんに戻ったときに、私は「この人は持ってる人」なんだなって思いました。紆余曲折を経ながら自分の戦いを、自分の在るべき姿を誰に伝えるでもなく静かに染みいるように決心するシーン。傷ついても失っても、自分の生き方を、感性をその中に大切に力強く持ち続けられる人。天然で、おっとりしていて、朗らかで、自然体で笑うことができる。自分も、その周囲に居る人達も笑顔にして幸せにできそうな人。
 私はそういう人に心当たりがあります。小学校の同級生で同じように天然っぽい人がいて、同窓会で会ったときも変わらなかったんだけど、きっとその人も色んな経験をして、それでも変わらずに今も居続けているんじゃないかと思ってます。
 傍目には周囲が心配してしまうほど頼りなげに見えるんだけど、実はとても強いメンタルを備えている。その強さが人を傷つけない。すずさんを見たときに、創作物のキャラクターとしてではなく、実体を持った人間として感じられました。だからめっちゃ凹んだんですけどね。ズルイんです、この作品。視聴者の心をへし折っておいて、真っ先に主人公が立ち直るんだもん。そんなことされたらこっちだって奮い立たないとカッコ悪いじゃないですか。


 旦那さんは良い奥さんを選んだと思いますよ。もしかしたらこの夫婦は夫婦になり損なったのかもしれないけど、でも、時間をかけて夫婦になったときに、とても温かい、笑顔の絶えない家族になるんじゃないかと思います。っていうか、すずさんいるんだから幸せになりやがれコンチクショー!!


[ 2016年11月28日 23:20 ] カテゴリ:映画の感想 | TB(0) | CM(-)
トラックバック
この記事のトラックバックURL