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日露戦争、資金調達の戦い(板谷敏彦)

○日露戦争、資金調達の戦い―高橋是清と欧米バンカーたち  板谷敏彦 新潮選書

日露戦争、資金調達の戦い―高橋是清と欧米バンカーたち (新潮選書)


 歴史に「たられば」はないが、日本がもう少し柔軟に南満州鉄道への外資参加を扱えていたら、例えば過半数を日本が押さえるにしても、アメリカやイギリスなどからも資本出資を募っていれば、その後の日本の歴史も大きく変わっていたのかもしれない。しかし、小村寿太郎が「桂・ハリマン協定」を破棄する際に使った論理、「満州は二十億の軍資金と十万の大和民族が流した血潮によって獲得されたもの」は、その後の日本の国際社会における行動を束縛していくことになってしまったわけである。まさに、サンク・コスト(埋没費用)の典型である。こうした教訓も今日では忘れられがちなのだ。


 日露戦争当時の軍資金調達模様を書いた本。外国人資本家から見た日露戦争というアプローチが新鮮。
 この戦争は日本にとって経済デビュー戦も兼ねていました。新興国でしかない日本公債が売れないのなんの。金利も高いし、戦争後に借金としてのし掛かるし……と経済面でも苦しい戦争だったようです。

 「桂・ハリマン協定」は最近知った単語だったので、本書で扱われていたのはグッドタイミングでした。
 ハリマン氏はアメリカの鉄道王。その富は遺産が日本円で2億円とも言われていて、これは亡くなった同じ年の日本の一般歳出が5億円強だったことと比較すればその凄まじさが分かるでしょうか(軽工業が主だった日本がショボかっただけかもしれませんが)。
 話しを日露戦争に戻して、戦争に勝った日本はロシアから賠償金をとれませんでした。戦争の賠償金で儲けるのは当時の常識だったのでこれは死活問題になります。なにしろ公債だって賠償金をアテにしていたわけなんだからそれがゼロでは返すに返せない。実際には満州の権益を得られたので決して悪い取引ではなかったようですが、国民からは大ブーイングだし、上記のようなフレーズが生まれる背景にもなりました。
 お金が無い日本にとって南満州鉄道の経営は頭の痛い問題。そんな中で鉄道王ハリマンがユーラシア大陸横断鉄道作ったるで!と名乗りをあげてくれたのは渡りに船でした(日本側のニーズだったらしい)。これが桂・ハリマン協定。実際には結ばれなかったので正確には覚書。

 この協定のメリットは、資金不足の日本にとっては持ち出しが少なくて済むこと、アメリカ人が南満州鉄道に資本提供してくれればロシアへの牽制になるなど財政・防衛・日米経済の面で安定すること。史実では日本が満州を単独経営、平たく言えば植民地にしていくわけなんですが、もし協定が結ばれていたら満州やアメリカとの関係も変わっていたかもしれないと言われるのはここにあります。
 この協定が破られたことでアメリカとの関係が悪くなったという説もあるようですが、これ自体の影響はそれほどでもなかったんじゃないかなーって気がします。ちなみに日本は同じ時期に国内の鉄道関係を国有化しちゃうんですが、これは利便性(会社が多すぎてアクセスが悪かった)もさることながら外資から守りたかったというニーズもあったようです。いずれにせよ、この時代はどの国も植民地主義に走っていたので国力増強の点でも日本が満州を植民地化する流れは止められなかったと思うし、仮に協定が結ばれていたとしてもそれはそれで色々と問題が出てきたんじゃないかって気がします。

 むしろ協定破棄は氷山の一角で、この当時の日本が国際的にどう見られたのかが気になりました。本書で解説されているように、満州鉄道の経営はロシアと清国の取り決めを継承しているので、建前では日本と清国の共同経営になっています。それを理由に協定を破棄してもいます。が、実際には日本が100%の資本を握ります。露骨にもほどがある。そもそも日露戦争は門戸開放を大義名分にして公債募集もしていた。つまり日本は満州を開放するために外国人から金を集めておきながら、勝った途端門戸を閉ざして持ち逃げしたようにも見えるわけです。門戸開放と植民地主義はこの時代どの国も自分に都合の良いように使い分けていたんで日本もそれをやっただけなんですが、それが露骨かつ性急だったように思えます。別な本で日露戦争以降アメリカの態度が硬化したという記述を読んだ憶えがありますが、こうした日本の不誠実な態度、急速な軍国主義化、植民地主義化は警戒されて当然です。

 日本海海戦でバルチック艦隊を破った日露戦争は国内ではウケがいいエピソードだと思いますが、こうしてみると日露戦争と太平洋戦争は繋がっているんだと再認識しますね。未完のファシズムで第一次世界大戦からの日本軍内部の事情が解説されていたように歴史ってホント流れだな~と。


[ 2015年08月25日 20:41 ] カテゴリ:本の感想 | TB(0) | CM(-)
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