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ウォルト・ディズニーの約束

監督:ジョン・リー・ハンコック
脚本:ケリー・マーセル、スー・スミス

 パメラ・トラバース原作の「メアリー・ポピンズ」をウォルト・ディズニーが映画化するまでの悪戦苦闘と作家の苦悩を描いた映画。メアリー・ポピンズを全く知らずに見たが、この映画は文句なしに面白い。

 ディズニーのオファーを20年近く断り続けてきたもののお金が底をつきかけ、最終決定権は自分にあることを担保にパメラは映画脚本の監修に加わる…という出だしから始まる。パメラが何故頑なにメアリーの世界観を守ろうとするのかが過去の回想を経るにしたがって解き明かされていくミステリー風作劇。この物語が提示するのは、物語が作家にとって自分の一部であり切り売りするだけの商品ではないこと、創作を通じて自らの心を癒そうとする人間の脆さと救済です。

 序盤の頑固おばさんぶりが半端ない。アメリカ(人)を嫌っていて何でもかんでも難癖つけるわ、脚本の打合せでは必ず録音することを条件にするわ、出だしの一行目から「この番地の呼び方が気に入らない」とディズニースタッフの頭を抱えさせる。物語が進むにつれて彼女が人間味を持った人物に見えていくのはベタな作りだけど、丁寧な流れで、運転手とのささやかな友情エピソードがニクイ演出となって彼女の好感度を上げている。

 彼女の回想から明らかになってくるのは、父親は陽気でユーモアを持った優しい人であったこと。銀行員だったが上手く仕事に馴染めていなかったこと。映画冒頭での田舎への引っ越しは、どうやら都市銀行をクビ(左遷?)になった結果であることが読み取れる。父親は次第に酒が手放せなくなり、転落事故が原因で亡くなってしまう。
 この過去のエピソードと現実が同期しながらちりばめられた伏線が回収されていくのも綺麗。終盤のウォルトとの対話シーンもまた美しい。パメラがメアリーを手放したくないのは、それが彼女にとっての聖域、潜在意識であり願望だから。自分の大切な想い出、大切な願いが託された物語が何も知らない人達の勝手な解釈や都合でねじ曲げられてしまうのはどうしても許せない。彼女の過去は現在でも色褪せることなく生きている。それをウォルトは見抜く。同じ作家として、創作者としての共感と向き合い方を伝えるこのシーンによって二人の人柄と葛藤がコインの表裏だということが分かる。

 また本作のエンディングロールは画竜点睛の見本というべき見事な仕上げ。打合せで録音された彼女の肉声が流れるのだ。本当に番地のみならず事細かに注文を付けていることが分かる。映画同様気むずかしそうなおばさんの声。だが、父親の写し身であるバンクス氏について語る彼女の声には父親への憧憬と優しさが滲み出ている。勿論実際に彼女がどのような心情で言ったかはわからない。しかしこの映画を見た観客は彼女の言葉に父親への愛情を読み取るだろう。この一言に説得力を持たせるために構築したんじゃないかと思えるほどの見事な構成。エンディングロールにこんな使い方があったのかと驚嘆しました。


 人はみな誰でも子どもを経験している。しかし子どもの頃に考えていたこと、感じていたことを忘れてしまう人は意外に多い(記憶力というんじゃなしに、感受性として子どもの頃の感覚を失ってしまう)。でもやっぱり誰もが子どもの頃に得たものを大人になっても棄てられずに持っているのだと思う。それは宝であることもあるし負債でもあることもあるし、玉石混合だろう。幸いにして私のそれは宝だ。だから私はそれを大事にしまい込むんじゃなしに、ガンガン自分のために使う。そうするとそれはより洗練されていく。過去から現在まで自分の人生を肯定し得ることは、とても幸福なことだ。それは不断の努力と創造力によって成し得るものだと私は思っている。

[ 2014年04月03日 14:04 ] カテゴリ:映画の感想 | TB(0) | CM(-)
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