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黄金の王 白銀の王(沢村凜)

○黄金の王 白銀の王 沢村凜 角川文庫
記:2012.5.6

 とある国で長年2つの勢力が争っていた。現在の統治者である鳳穐(ほうしゅう)の王櫓(ひづち)は自らに問う。統べるものとしての責務とは何か。全てを守り、育むこと。しかし現状は骨肉の争いが続いており国は疲弊している。この血みどろの憎しみ合いから抜け出すにはどうすればいいのか。そして王は決断する。
 宿敵である旺廈(おうか)の王薫衣(くのえ)と手を組み二つの氏族を一つに統合する世代を超えた計画が始まる。

 架空の世界を舞台にあらゆる手を尽くしながら国と民を導いていく二人の王の姿が熱い。
 ライバルがタッグを組んで世界を変えていく、というと橙乃ままれ著「まおゆう」を連想するんですが、まおゆうが技術革新や制度改革を軸に人類史を100年単位で追って行く(作中の経過は数年)ダイナミックな物語だとすれば、本作は一つの国の内政を地道に変えていく話し。規模は小さいが具体的どのようにして改革を進めていくか、その時の王達の心労、決断が子細に書かれていてヒューマンドラマとしても読み応えがある。冷徹に決断を下す理論派の王とカリスマ的な天才肌の王それぞれの立場での苦悩と奮闘は物語を起伏に富んだものにしている。

 世界観の設定がシンプルで秀逸。主な勢力は上述の2つだが実際には諸勢力が加わっており王といえど好き勝手に話しを決められない。機嫌を取りながら水面下で準備を進めていくというような関係勢力との調整は現実でもよくある話し。この辺の内政は地味だがその分現実的で面白い。またこの世界では宗教がほぼ廃れている代わり迪学(じゃくがく)と呼ばれる一種の哲学が浸透していて私情に流されず小事に惑わされることなく大局を見定めることが大事であると説かれている。二人の王はこの思想を誰よりも理解し実行していくが故に周囲から様々な反感、批判、誹謗中傷を受けることになる。その分如何に人間が小事に惑わされやすいか、私情を持ち込みやすいかということが浮き彫りになっている。
 昔から続いている対立や慣例を変えるのが如何に困難か、リーダーに求められる責任や判断が如何に重いものであるかが真っ正面から書かれているのが特徴。憎しみの連鎖を断ち切ると言うと綺麗に聞えるし王を視点にしているため贔屓目になりがちだが、普通に考えれば彼らがやっていることは意味不明であると思う。何故なら彼らがやろうとしていることは数年、十数年どころか彼らが生きている内に決着がつかない課題を問題にしていて普通の人にはそこまで考えが及ばないからだ。何故一人残った血統である薫衣を殺さないのか、高い官職を与えるのか。一見すると鳳穐側に利益の無いことをやっているように見えてしまう。また薫衣の鳳穐に媚びへつらう態度は旺廈の名誉を大きく損なうことをしているように見えてしまう。そのために彼らは内外から多くの反感や中傷をかってしまい苦悩し続ける。この辺のくだりは「レ・ミゼラブル」のジャン・ヴァルジャンを思い出しました。人間的な感情、楽な方を選んでしまいそうになる誘惑を押さえ込んで超人的な精神力と行動力によって信念を貫く彼らはもはや聖人に近い。ただし本作の王達が人間離れしているかと言えばそういうわけでもない。これが一人だけなら挫けてしまったかもしれないが、お互いに認め合うことで精神的な支柱になっているのは人間心理として共感できるところでした。特に薫衣の立場は苛烈で、常に自己否定の念に晒され続けるのですが妻が無条件に受け入れる寛容さを持っていたことは彼にとって救いになっている。この物語の素晴らしいところは、国の政治を変えていくというマクロ視点と人間心理のミクロ視点を絶妙なバランスで取り入れている点にあります。大河ロマンとしても、人間ドラマとしても面白く、その両方が備わっていることで先を読み進めたいけど読み終わりたくもないという楽しい体験ができた本でした。
[ 2013年05月22日 14:12 ] カテゴリ:本の感想 | TB(0) | CM(-)
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