六畳半のすごし方 TOP  >  本の感想 >  お家さん(玉岡かおる)

お家さん(玉岡かおる)

○お家さん 上下巻 玉岡かおる 新潮文庫
記:2011.3.7


 明治から昭和初期にかけて存在した巨大企業「鈴木商店」のオーナー鈴木よねを主人公にした物語。会社の立ち上げから勃興、衰退(倒産)までが書かれている。

 この会社自体知らなかったので新鮮な気持ちで読めました。一時は三井や三菱を上回る年商を上げ、当時のスエズ運河を通る商船の半分は鈴木商店持ちの船だったというから想像を絶する規模です。元々鈴木商店は砂糖や樟脳を卸して販売していた会社でしたが、よねの夫が他界し、その後金子直吉という番頭の働きによって巨大化しました。今でいうベンチャー企業のような立ち回り方で、当時台湾を領土に加えたことに目をつけたのが大躍進の始まり。その後トントン拍子に利益を拡大していく展開は例えるならシムシティで街を順調に拡大・発展させていくような感覚ですね。鈴木よねが語るように、安く大量に品物を供給することによって国民の生活を豊かにしようとする動機の在り方はカッコイイしおそらくこの当時の日本とすれば切実な問題だったのだろうと思います。当時の日本人が西欧列強に追いつき、近代化を遂げていこうという熱気に溢れていた様子が描かれています。

 現在とは大分異なる時代背景を持った小説なので色々参考になりました。
 丁稚奉公という言葉に見られるようにこの当時の日本型経営の特徴が分かりやすい。良くも悪くも公私混同なわけなんだけど、それ故に人材の活用が柔軟で適材適所が可能だったのだろうと思います。鈴木商店はその後拡大し、金子の独裁的経営では対応に限界を迎えてしまったこと、株式公開をせず一銀行に大きく依存した資金繰りから破綻してしまった様子は時代の変遷を感じさせます。「主人と番頭」というよねと金子の関係性は、もはや当時としても古い考えだったのでしょうがかつての日本人が持っていた価値観を示しています。

 台湾が中国本土からも見放された地であったことは他の資料からも知っていましたが、この土地のインフラを整えることで日本の国力を増強したい狙いがあったのはまず間違い無いでしょう。未開拓の地が商人にとっては非常に魅力的な土地であったことも分かります。樟脳などの原材料を獲得しようと誰よりも先に先遣隊を送ることで鈴木商店はその後の市場を大きく掌握しています。
 日露戦争、第一次世界大戦が終結した後日本は不況に陥ります。その様子は作中でも描かれていますが、あまりに仕事がないんで食い詰めた人々が台湾や満州へ行くしかなかったという話しを聞いたことがあるので合致するところです。特に第一次世界大戦後の世界大恐慌は深刻で、西欧はブロック経済をしいて植民地を利用してしのいでいたのに対して領土をほとんど持たなかった日本が何とかして台湾や満州の利権を守ろうとしたこと(中国での特殊権益にヨーロッパやアメリカがちょっかいをかけてきた)はその後の日中戦争に繋がります。

 また、この時代の女性の生き方を魅力的に書いているのも見所。この当時の女性は経済活動をするには制限が多くあったし世間の目も厳しいものでしたが、よねがオク(店と自分が生活する場所が一体になっていることが多く、生活空間をオクと呼んでいた)を守ることに生き甲斐や魅力を感じていた様子が印象的です。この他、女一人で旅館を経営するお千、波瀾万丈な人生をおくることになる環喜などの女性達の生き方はそれぞれに苦悩しながらも強く生きていく姿が描かれています。よねが主軸になっている物語ですが、よねと環喜の母と(疑似)娘の絆の物語としても十分に成立している。会社は無くなっても、そこで育った人々の記憶や意志が継がれていくエピローグは感動的。

 日本の近代史を知る上では実際的で面白い小説だと思います。
[ 2013年05月22日 14:08 ] カテゴリ:本の感想 | TB(0) | CM(-)
トラックバック
この記事のトラックバックURL