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六畳半のすごし方 TOP  >  本の感想 >  かがみの孤城(辻村深月)

かがみの孤城(辻村深月)



○かがみの孤城 辻村深月 ポプラ社
 私が読んだのは上下巻に分かれた単行本。リンクはハードカバー版を採用(レビュー数が多いため)


 ある出来事をキッカケに不登校になった主人公こころ。
 部屋の鏡が光ると、大きな城に連れ込まれる。そこの管理人"オオカミさま"は主人公を含めた7人の少年少女にこう言う。鍵を探し出せ。探し出せた者の願いをなんでも一つ叶える。


 こんな出だし。この説明だとバトルロワイヤルが始まりそうだけど、彼女達はみんな不登校児で期間も約1年。部屋から孤城への出入りも自由。
 不登校の子どもの心理を描写した物語。主人公のキッカケも実際にありそうな出来事で、彼女の性格もそれに拍車をかけている。正直、私は彼女のような考え方や態度が好きじゃない。面倒臭いって思うから。彼女は周囲の空気や考えをしりきに読もうとする。顔色から思考を読んで調子を合わせたり、あるいは不安になったりする。少し思い込みも激しい。例えばこんな風に

 学校の先生たちは、たいてい、真田美織みたいなクラスの中心人物の味方だ。教室の中で大きな声で話す、休み時間も外で友達とたくさん遊ぶ、溌剌とした、ああいう真っ当な子の。
 その彼女が本当はどんなことを自分にしたのか、話して先生を唖然とさせてみたい気もしたけど、先生はきっと、それでもあの子の味方をするだろう、と思っていた。もっと言うなら、知っていた。
 先生はきっと、真田美織に「本当なのか」と正面から尋ねるようなことを、きっと、する。
 認めるわけなんかないのに。
 あの子は、あの子にとって正しい話しか、きっとしないのに。
 ――どうして出てこないの、ひどい。
 友達みんなと家を取り囲み、その中でこころがあんなに恐怖に震えていたのに、真田美織はそんなふうに、外で泣いていた。それを、あの子の友達が「美織、泣かないで」と慰めていた。
 あの世界では、悪者はこころの方だ。信じられないけど、そうだ。



 この推測自体はおそらく当たっている。彼女の観察力と思考力は悪くないどころか優れているとも言える。そのおかげで登場人物の表情や動作を説明してくれるので読み手としてはありがたい。でもそこまで考えて彼女は何もしないし、できない。
 彼女のような心理特性を最近の言葉で表すならハイリー・センシティブ・パーソンに近いかもしれない。と言っても私もこれ自体はあまり詳しくないけど、要するに気を回しすぎて想像しすぎて情報量に圧倒されてしまう。主人公の様子からはそういう風に見える。自分からは主張しない。空気を読み合わせる。だから必然的に思考は他責になりがち。相手が悪い。自分は悪くない。自分をちゃんと理解してくれない親が悪い。でも自分からは弁明や説明はしない。できない。そのくせ相手がこうしてくれたらいいのにと助けてくれるのを期待して待っている。

 極めつけは原因を作った真田美織が死んでほしいという願い。
 末期的で典型的な追い詰められた人の一発逆転発想。役満って感じですね。仮にそれが叶ったとしても不登校になった事実、友達がほとんど作れていない状況、勉強に遅れている状況は何一つ改善されない。元凶が消えたところで別な理由で困るのは目に見えている。でもそんな当たり前のことすら考えられないほどに追い込まれている。というか自分で追い込んでいる。
 そんな彼女が孤城での経験から成長……したようなしなかったような話。


 不思議なんだけど、学習障害以外の、人間関係の不和から不登校になった人ってなんで勉強しないんだろう?って思います。してる人もいるだろうけど勉強しなくなる人もいる。そんな場合じゃない。その気になれないって感じなのかもしれないけど、それって自分の首締めてるよね。
 端的に言えば、大人になったときに飯を食えるか。この一言に集約される。学校なんてそれ自体どうでもいい。ただ現代社会は学歴社会だから勉強して学校行って就職のチケットを手に入れるのが最も効率がよく、そしてバカでもできる楽な方法だ。
 バカほど学校に行った方が良い。学校に行かずにまともな就職口や収入を得る方がどう考えたって難しい。障害者ならいっそ障害者枠を狙う方法もあるが、小説の主人公のように人間関係から不登校になった人ではその方法も使えないだろう。

 私は昔から性格が尖っていたからいじめられたりいじられたりしたけど、学校に行かないなんて選択肢はなかった。
 そもそも学校の良いところは数年でそれが自動的に終わることだ。ただ待てばいい。勝手に邪魔な奴も消える。その間に自分をレベルアップさせて良い学校、良い会社に入って心の中で「へ、雑魚が」とか思えばいいのだ。

 この小説はちゃんとそこもフォローしている。主人公の近所に引っ越ししてきて、そして1年で(親の都合で)引っ越すことになった東条萌はこう語る。

 低く見えるのなんて当たり前じゃん。あの子たち、恋愛とか、目の前のことしか見えてないんだもん。クラスの中じゃ中心かもしれないけど成績も悪いし、きっとろくな人生送らないよ。十年後、どっちが上にいると思ってんだよって感じ


 そういうこと。気にするだけ無駄なのだ。放っておいても勝手に視界から消える。
 別な人物は勉強はローリスクだと語る。勉強した分だけ結果がついてくる。結果的にそれは自分の自信や選択肢を広げてくれる。いじめっ子を見返す方法は簡単で単純だ。そいつより良い人生を送ればいい。そのために必要なのは自分を豊かにすること。バカに謝ってもらう必要はないし、バカに構う必要もない。

 中高生にとって3年は長い。その生活が不安と苦痛に満ちているのは耐えがたいのだろうが、それでも私はたかが3年と言いたい。人生はそれ以上に長い。その長い人生をよりよくしたかったら勉強というローリスクな方法を取るか、特殊な才能や偶然を引き当てて一発大勝負に勝つか、空から女の子が落ちてくるか、トラックに轢かれて異世界転生するしかない。


 主人公の結末はある意味その一発大勝負に勝ったあげく空から女の子が落ちてきたようなもので、正直都合が良い。孤城での体験や人間関係はたしかに彼女を成長させているがその記憶は消されているし、主人公が自らその状況を打破したとはいい難い。
 この小説は体裁としては希望的なラストだが、都合の良さの分だけ現実の過酷さを浮き彫りにしている。

 結局のところ、ひきこもっても事態は改善しない。大人でも友達でもなんでもいい。彼らを利用しろ。東条萌なんて転校して誰も構ってくれなかったら泣けと言っている。そうすれば同情して優しくしてもらえるから。それくらいの図々しさがあった方が生きやすい。自分ができないこと、弱いことを認めて人を頼ることも強さだ。頼れる人がいることは何よりも武器になる。

 これは大事なことだけど、みんなバカだしみんな弱い。歳をとればとるほど実感する。
 みんなバカなんだ。だから自分がバカで愚かで無能であってもそこまで気に病むことはない。みんなバカで愚かで無能だから。素直に頼って、素直に感謝して、その恩を当人か誰かに返せばいい。その方が生きやすい。他人に興味がないシゾイドパーソナリティの私ですらそう思うんだから間違いない。
 みんなバカだしみんな弱い。けどみんなそれなりに親切なのだ。


[ 2021年04月17日 21:58 ] カテゴリ:本の感想 | TB(0) | CM(-)
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